カンブリアの蛍石

 

CumbriaはRogerley鉱山などで有名なCo.Durhamの西に隣接しており、Hilton鉱山の黄色い蛍石が特に有名です。また独特の青色をした蛍石を産出するUllcoats鉱山もしくはFlorence鉱山や、その他Rotherhope Fells鉱山などが知られています。

ただしCumbria州の一部は1974年の合併以前はCumberlandと呼称され、加えて多くのディーラーがCumbeland州Alstonで営業していました。

そのため古い標本では、Cumberlandとラベルされていたり、AlstonもしくはAlston Moorとラベルされているかもしれません。

 



Hilton Mine

DowScar Level, Hilton Mine, Scordale, Escarpment District, North Pennines, Cumbria, England

Thumbnail

Collected c. 1964

 

イギリスを代表する蛍石鉱山の一つ・Hilton鉱山の黄色い蛍石。

ピンからキリまで存在するその中でも、比較的良品と言い切れるサムネイル標本である。

本当に心地の良い琥珀色である。うっすらと青い成長線もみえ、恐らくマーカサイトといわれる硫化鉱物のインクルージョンも良い花を添えています。

 

Hilton鉱山は19世紀中から稼働していた鉱山で、一応の閉山は1963年とされます。後に周辺を含め軍用の射撃場となっているため一応絶産となってる、と言われるクラシックであり著名な蛍石産地なわけです。これは中でも1960年代に採集されたもの。こういったGem Qualityで色の濃いものは80年代以降は出ていないとか、なんとか。ここは疑問の余地が残りますけどね。

(2017/12/14)

Hilton Mine, Scordale, Escarpment District, North Pennines, Cumbria, England, UK

25mm×17mm×13mm   found:2005?

 

前々から欲しかった青いゾーンをくっきり伴うHilton鉱山の蛍石。

ハッキリ言ってダメージや形を考えればこれより良い標本はいくらでもあります。が、この色合いと抜群の透明感そして何より主張の強い青いゾーンがどうにもこれ以上好みのものを探せないのです。

ちなみに黄色の中に浮かんでいるように見える物体はパイライトで、この鉱山の蛍石ではよくみられます。

 

しかしこの青いゾーンは大抵の標本では大きく目立つものではありません。したがって、注意して見なければ案外わかりにくくショーなどでは見逃してしまうことも多いでしょう。

写真をとる際も黒い背景で撮影していたら、青いゾーンがわからない写真ばかりになっていまいました。

 ラベルにfound:2005と書かれていることから、もしかしてこれ2005年に採取してきたのでしょうか。一応坑道は崩れてはいないらしいのですが…危険でしょうに。コレクターの執念といったところか。

(2017/6/11編)


Dowscar Level, Hilton Mine, Scordale, Escarpment, Cumbria, England

Toenail Sized

Collected in 1960's

 

少々変わり種のヒルトン鉱山の蛍石。

どこが変わっているかというとエッジの部分とエッチングによる溶けた部分。

あんまりこういうヒルトンってみないよね?というもので、エッジは細かいTetrahexahedronの面で囲まれているらしい。照りのある部分とよく溶けた部分がまじりあっていて、それでいて色も比較的よい黄金色。Best Qualityではないけれど、私の中では結構ポイントの高いヒルトンなのかも。

(2018/3/4)


Florence Mine

Florence Mine, Egremont, West Cumberland Iron Field, North and Western Region, Cumbria, England, UK
Small Cabinet Size 

Ex. Georg Farr collection.

Photo by Kiyoshi Kiikuni 


このフローレンスはとても思い出深い標本です。

蛍石に魅せられたものが深淵に墜ちてゆくまでの過程で、一度は必ずフローレンス鉱山の真っ青な蛍石を入手したい病にかかるわけですが、私もかかりました。

まだ蛍石を集め始めてさほど年月の経っていない頃、薄い水色や青色でも小さいものはまだ稀に入手できても良質といえる標本の入手はすでに困難となっている中、ようやく見つけたこの標本を、学生だった自分が当時ほかの石を購入するのを我慢し大枚をはたく感覚で入手したことをよく覚えています。

 

赤鉄鉱と真っ青な蛍石の教科書的な共生ですが、蛍石が1㎝を超えることはあまり多くありません。この標本は1㎝~5㎜の特徴的な色合いをした無数の蛍石が鏡鉄鉱とともに赤鉄鉱を覆う非常にリッチなもの。

かのArthur Russell卿とまではいかないものの、蛍石で知られたコレクターGeorge Farr氏の元コレクション。

(2021/7/23)

 


Egremont, West Cumberland Iron Field, North and Western Region , Cumbria, England, UK

Attr:Florence Mine, Mined before 80's
30mm×27mm×15mm

 

鏡鉄鉱が赤鉄鉱を覆う母岩に青い蛍石というこの地域独特の標本。


澄み切った朝空のような青さで、この青色と鏡鉄鉱の漆黒の組み合わせは本当に印象的です。

結晶も最大で10mmと大きいとは言えませんがそれなりのサイズ。


メインの結晶にあるヘマタイトのインクルージョンや、結晶にモディフィケーションが現れている点も興味深いです。


標本の一部にダメージはありますが、1975年前後のコレクションから入手したものなので仕方がないのかもしれません。ちなみに以前のラベルにはEgremontと記載されていましたが、共生鉱物や結晶のサイズからFlorence鉱山のものと判断しています。


Florence Mine, Egremont, West Cumberland Iron Field, North and Western Region (Cumberland), Cumbria, England, UK
29mm×25mm×10mm   Largest=7mm

Ex: R.A.Berry Collection

 

これもフロレンス鉱山の蛍石。

サムネイルサイズで青い蛍石という点では掲載済みの標本と一緒なのですが、これは白いバライトの上に蛍石が成長している点で異なっています。

あくまでもうっすら青色もしくは水色という感じですが、透明度がよく少しだけ赤味を帯びたバライト、鈍く光る鏡鉄鉱との組み合わせが良くまとまっています。

 



Rotherhope Fell Mine

Rotherhope Fell Mine (Rodderup Fell Mine), Alston Moor District, North Pennines, Cumbria, England, UK

Attr: Tynebottom flats Ca. 1930.

40mm×37mm×26mm  Largest =29mm

Ex. Lawrence H. Conklin Collection

Prev: Albert Sebela Collection

 

イギリス、Alston Moor(オールストン・ムーア)のレアな産地Rotherhope Fell鉱山の蛍石。

色合いはおもにあずき色で、よく見ると結晶の端に琥珀色が現れています。

イギリスの蛍石の常にもれず蛍光し、独特の紫色へと変身します。怪しい紫ですね。

(写真では1~3枚目が室内、4~5枚目が夕日での蛍光。色の変化が確認できます。色合い的にはFrazer's Hush等と似ています。)

 

そして透明度も抜群ですが、最も特徴的なのは形かもしれません。

the scalloped edgesと称される結晶の端の波打つようなモディフィケーションの存在は、他の数あるイギリス産蛍石と一線を画しています。

(中国湖南省の蛍石等ではよく見るようなアレとにています。)

勿論イギリスの良くある例にもれず貫入双晶にもなっていますが。

 

Rotherhope Fell 鉱山はほぼ見かけることのない産地ですが、それは稼働していたのが1827年から1948年と半世紀以上も昔であるためです。Alston Moor地区では最もプロダクティブで尚且つ綺麗な蛍石を産したらしく、写真を見た限りでは紫色の蛍石がメインで、外側が黄色となることもあるようです。

特に、1920年代後半から1930年代初頭にかけてthe Tynebottom Limestoneでとれた蛍石が有名のようで、その一部はロンドン自然史博物館に収蔵されています。今回の標本もその中の一つと思われ、波打った結晶の端、そして琥珀色のゾーンというのが特徴が表れています。

そして付属したラベルからも100年近く昔の標本なのね、という時間を感じます。


Rampgill Mine

the Boundary Cross Vein, Rampgill Mine, Nenthead, Alston Moor District, Cumbria, England, UK

63mm×40mm×30mm  Largest = 1cm

 

Rampgill Mineの黄色系蛍石とシデライト(黒い部分がそうです)

同じくカンブリアにあるヒルトン鉱山のものとはちょと違った色合いの薄い琥珀色をメインに、これまた薄めの紫のラインゾーンを伴っています。なんといっても特徴は蛍石を覆うようなこの黒いシデライトです。

(実は位置的にはヒルトンに近いというよりもほぼWeardaleとの境界あたりに位置するのですけれど)

一見汚いだけに見えるかもしれませんが、しっかり見てみると渋くて良いのです。

ちなみに裏側には方鉛鉱がちょびっとついています。

 

このRampgill Mine自体は蛍石コレクターでもなければ知らないような産地かもしれませんが、実際にイギリスの蛍石に絞って探して見ると特にthe Boundary Cross Veinのものを結構見かけるという産地です。

大抵薄い琥珀色の蛍石(まれによく薄い紫のゾーンも)と黒いシデライトの組み合わせなので、そういう組み合わせの写真や実物を見ると「あーこの鉱山かな」と思ったりします。

というのも、歴史的には18世紀より稼働している古い鉱山で、坑道は北にあるノーサンバラードにまで続いていたりするのですが、2000年代前半にコレクターによってこの薄い琥珀色の蛍石産するポケットがいくつか発見されたなんていう経緯があるようです。

ですから、これもその内のひとつなのでしょう。


Carrs Mine

Carrs Mine, Nenthead, Alston Moor District, Cumbria, England, UK

Miniature Sized

 

この鉱山の蛍石なんて見たことない!しかも閃亜鉛鉱結晶と共生だなんて!!

ということで、イギリス蛍石の心得が少しでもあるならば飛びつかずにはいられない標本でした。

 

色合いとしてはWest Pasturesにも通じるライムグリーン色で、勿論蛍光も強いほうです。黒い閃亜鉛鉱との組み合わせも良いものです。話によると2000年以降に採取されたものとのこと。

 

Nentheadはイギリスのなかでも歴史的な鉛産地として名を残す町です。Carrs鉱山もその一鉱山として1800年代に鉛を採鉱したもので、SmallcleughとRampgill鉱山のちょうど中間に位置し、この両社では蛍石標本は知られたものです。時折鉱山観光ツアーなどが開催されるようで、機会が巡り来れば赴くのも悪くないでしょう。

(2017/6/11)