テネシー州の蛍石
テネシー州といえば、真っ先に紫色の蛍石と閃亜鉛鉱やバライトとの組み合わせが美しいElmwood鉱山の物が思い浮かびますが、他にもGordonsville鉱山やCumberland鉱山の物が細々と流通しています。 これら3鉱山すべて60年代~70年代にかけて開発された亜鉛鉱山で、ミシシッピバレー型鉱床(MVT)に属します。
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Elmwood mine, Carthage, Central Tennessee Ba-F-Pb-Zn District, Smith Co., Tennessee, USA
Miniature SIzed
テネシー州の有名な鉱山・Elmwood鉱山の蛍石。
白いドロマイトを伴ってロイヤルパープルの大粒結晶が、シンプルに美しい標本。
近年ではこういった鮮やかな紫で綺麗な結晶はほぼ見かけなくなってしまいました。
これはコレクターの放出品であり、以前の持ち主の美学が窺い知れます。
Elmwood鉱山はルビージャックと呼ばれる閃亜鉛鉱や、宝石を思わせるような黄金色の時にステラビームと称される犬牙状方解石、そして無色~薄いピンクや濃紫の蛍石で広く知られた産地です。
Missipi Valley-typeに属し、他にもカリフラワー状の重晶石やドロマイトを伴って産出されます。
歴史的な流れを見ると1960年代中盤からテネシー州にて亜鉛を目当てに試掘を繰り返した結果でてきたのが、このElmwood鉱山です。途中からはゲルマニウムも副産物として操業していましたが亜鉛価格の低下に伴い2003年に一度は閉山しました。
その後2010年に別会社によってReOpenされ、犬牙状の方解石が市場にある程度出回りました。一方蛍石に関しては往時の質には全く届きませんでしたが、それでも一定数はコレクターの手元に標本として供給されました。しかしそれも長くは続かず、2015年末に再度閉山の報が出回り、今後はどうなるか気になるところです。
(2017/5/16)
Elmwood mine, Carthage, Central Tennessee Ba-F-Pb-Zn District, Smith Co., Tennessee, USA
同じくElmwoodの蛍石。
ただ、形がちょっと面白い。この鉱山ではetchingをうけることによって、エルムウッドコーナーや、いわゆるセプタータイプの蛍石が出ることはコレクターの間では良く知られます。そのセプタータイプの、あるいはキノコみたいな形の柄の部分が恐らく取れてしまった、という形なのでしょう、どこかへんてこりん。
素人目には単なる劈開片にしか見えないかもしれませんが、ちゃんと見れば一面以外は全部結晶面。
色合いは透明~うすーい黄色で、その上に紫色の斑点がちょこちょことでています。
一般的にエルムウッドの蛍石は紫のイメージが一番強いと思いますが、あの紫の内部は無償透明であったりうすめたウィスキーのような色のことも良くあるのです。
ちなみにこういうエッチドなタイプは人気ですが、1990年代とかの今から四半世紀昔のものです。これも業者の元コレクション。
(2017/12/10 編)
"S Level", Stonewall Orebody, Elmwood Mine, Carthage, Smith Co., Tennessee, USA
Ex. Martin Jensen coll. Mined c. 1998
Thumbnail Sized
というわけで真打登場。
元は立方体だった蛍石が、腐食を受けてセプター状に残ることはこのエルムウッド鉱山ではよく知られています。その中でもちょっと珍しい、セプター状の蛍石が2個左右対称にあるもの。
見ようによっては蛍石が飛び出した目、閃亜鉛鉱の溝が口のコミカルな顔に思えなくもない。
それでいて蛍石には目立ったダメージもなく、透明感、照りも最低限をクリアしている上に、入手時の詳細な情報もわかるハイレベルなサムネイル標本といってもいいのでしょう。
これも元は閃亜鉛鉱の上に立方体の蛍石がのっており、エッジ部分から中心に向かって腐食が進んだことで取り残された部分が左右対称に残ったと考えられます。なんとも自然の造形美ですね。
(2019/5/3)
Elmwood Mine, Carthage, Smith Co., Tennessee, USA
Ex. Kyle Kevorkian coll., Ex. Ralph Clark Coll #498
Thumbnail Sized
いやいやなにおおっしゃるんですか、こっちこそ真打ですよと。
エルムウッドの蛍石としては、おおよそ2㎝の結晶、3重のファントム、暗すぎず、かといって明るすぎない紫色のとても「かわいい」サムネイル標本といえるでしょう。
往年のサムネイルコレクターであるラルフクラーク氏の手元にあったことも、この「かわいさ」ゆえなのでしょうね。サイドカー的に小さい結晶がひとつだけついているのもまたたまりません。
大味な標本がどうしても多いと感じていたエルムウッド鉱山の蛍石ですが、もうひとつ上のMartin Jensen翁の標本も含め、探せばあるものなんですね。
(2021/1/8)
Gordonsville mine, Carthage, Central Tennessee Ba-F-Pb-Zn District, Smith Co., Tennessee, USA
Miniature Sized
Ex. Chris and Agatha Galas collection
テネシー州の蛍石といえば、Elmwood鉱山は有名どころでしょう。ただそれに続く2鉱山はあまり有名ではなく流通量もElmwoodに比べれば幾分劣ります、その片割れであるGordonsville鉱山の標本。
ドロマイトを母岩として薄紫色の蛍石、鼈甲亜鉛、バライトが揃ったCarthageらしい見た目となっています。
蛍石は透明度もまずまずで、しっかりファントムが入っているあたりポイント高いです。均整のとれた配置で、4㎝ぐらいのミニチュアという好みのサイズ
でラブリー。
Elmwoodあたりの蛍石や方解石は欧米ではかなり人気な標本なのですが、実のところ私にとっては濃紫色の標本というのにあまり食指が動かず、毎度毎度とスルーしてしまいがちな産地。
そんななか今回はアメリカ(だと思います)のコレクターが大量にElmwood・Gordonsville・Cumberlandな3鉱山の蛍石標本を手放し、中にこれはと思うものがあって久々テネシー州の蛍石を入手したのです。同じくアメリカの有名産地として名高いイリノイ州のものは年に何個となく入手するのにね、、、
ちなみにGordonsville鉱山の蛍石標本というのは「Elmwoodを20個見かけたら1個見かけるかな」ぐらいの体感なのですが、標本としてみてみるとElmwoodのものと差別化するような特徴は特段に内容に思います。もしかするとTennessee州蛍石コレクターにはわかる特徴があるのかもしれません。慣れてくるとイリノイ州の蛍石にも特徴があるのがわかってくるように。
Gordonsville mine, Carthage, Central Tennessee Ba-F-Pb-Zn District, Smith Co., Tennessee, USA
Thumbnail Sized
Ex. Martin Jensen coll.
”エル”ムウッドだけにL字の型。
と惜しいところで言えない残念な蛍石。というのも鉱山がエルムウッドのおとなり、Gordonsville鉱山だから。
しかし見た目にキャッチーな変わり種であることには変わりなく、こういう標本を持っている人は少ないんじゃないでしょうか。
蝕像を受けてアイスクリームコーンのような、セプターのような形になった蛍石が知られているのはコレクターの間では有名ですし、Carthageでの銘柄標本の一つであるわけです。しかしちょいと蝕像のすすみ具合が異なると、蝶ネクタイのような形だったり、この標本のようなレムナント、つまり残骸が残るわけです。
いいじゃない。残骸。無事”L"が手に入ったので、蛍石標本でFLUORITEの文字を作りましょうか…ってのはさすがにあれですか。
(2019/10/18)
Gordonsville mine, Carthage, Central Tennessee Ba-F-Pb-Zn District, Smith Co., Tennessee, USA
Thumbnail exceeding size
Ex. Martin Jensen coll.
これもまた「可愛らしい」と表現したくなるような標本でしょう。
ドロマイトの白の上に、紫色の蛍石が大小2個のる様子は、”双子”ではなく兄弟を思わせます。
エッジがあまりテネシーの蛍石らしくなくて、面白いなとも思ったのです。
ちなみにテネシー州のこれらの鉱山では蛍石が”双子”となることは極めて稀で、私も昔、1例だけ有名なコレクターが所蔵しているのを見たことがあります。探しても、探しても、ないんですよねぇ…
(2021/4/30)
Gordonsville mine, Carthage, Central Tennessee Ba-F-Pb-Zn District, Smith Co., Tennessee, USA
Thumbnail exceeding size
Ex. Martin Jensen coll.
うえの標本が「可愛らしい」であれば、こちらは「かっこいい」でしょうか。
綺麗な紫色の蛍石と、方鉛鉱、方解石からなるおおよそ4㎝の標本です。ここまでバランスが絶妙な標本ってなかなかないんですよね。前コレクターが鉱山関係者などにコネクションがあったからこそ、良質な標本にアクセスできたのだろうなと推し量れるものです。
ところで3㎝を超えてサムネイルサイズの標本ではない、でもミニチュアとまでいかないような4㎝ぐらいまでの標本を何と呼ぶか問題がありまして。皆さんはなんと呼称されていますでしょうか
(2021/5/14)