コーンウォールとデボンの蛍石
Cornwallはイギリス本土つまりグレートブリテン島の最も南西に位置しており、イギリスの古典的な蛍石産地の一つでもあります。また、Devonもこのページでまとめて扱います。 というのもデヴォンはコーンウォールに接した地域で、中でも蛍石の産地として知られるBere Alstonは殆どコーンウォールとの州境に位置しますし、コーンウォールと西デボンの廃鉱山群は2006年に”コーンウォールと西デヴォンの鉱山景観”として世界遺産に登録されているなど、歴史的経緯もあるからです。
その歴史は古く13世紀にはこの一帯で銀、鉛、銅などを採掘していたとの記述もあります。しかしその鉱山業の中心は錫であったようです。18世紀から19世紀にかけて錫と銅の採掘は劇的に発展し、産業革命と相補的な関係にありました。歴史の話はこれくらいとして、蛍石鉱山を大まかに見てみましょう。 コーンウォールではWheal Mary AnnやWheal Trelawny、East Pool、Trevaunaceなどが有名どころです。デヴォンではBere AlstonのLockerridgeやTamar Valleyなどが知られます。ともに様々な色の蛍石が出てきたわけですが、19世紀中に閉山した鉱山が多く、最後まで錫鉱山として稼働していたSout Crofty Mineも1998年に閉山しており、現在では標本の入手はかなり難しいです。
|
South Crofty Mine (South Wheal Crofty), Carn Brea, Camborne - Redruth - St Day District, Cornwall, England, UK
19mm×18mm×16mm
蛍石とビスマス硫化物である輝蒼鉛鉱の組み合わせ。
というよりも、蛍石に輝蒼鉛鉱がこれでもかと突き刺さっているといった方が正確でしょうか。この見た目からは中国湖南省・Yaogangxianの毛鉱入り蛍石に似ているという印象もうけます。
サイズは小さいですが濃い紫色でしっかり六面体式の蛍石で、ライトを強くあてると青みがかった紫色をしていることがわかります。輝蒼鉛鉱とのコントラストは本当にユニーク。
このSouth Crofty Mineも古い鉱山でその歴史は16世紀末に始まったとあり、錫や銅を目的としていた鉱山です。
コーンウォールだけでなくヨーロッパで最後の錫鉱山として1998年まで稼働していた、ある意味歴史的鉱山。
コーンウォールのなかでは鉱山名がはっきりわかる形での入手が最もしやすい産地かもしれませんね。
Pell Mine (Great Pell Mine), St Agnes Consols (Polberro Consols), St Agnes, St Agnes District, Cornwall, England, UK
50mm×40mm×30mm
Ex. H.R.McBroom Collection #3171
現在では入手の非常に困難なコーンウォール・Pell鉱山の蛍石&錫石の標本。
1870年代にはすでに稼働していた鉱山のものなのでアンティークといってもいいでしょう。
蛍石はレモン色を中心として、空色の部分が取り囲む爽やかなバイカラー。
六面体式の結晶となっていて、表面部分には微かにに紫色の斑点。トリカラーというには少々弱いですが。
この爽やかさはイリノイ州のBethel Levelあたりなんかと共通したところがあるかも。。
ちなみにページ冒頭に記載したとおり2006年に”コーンウォールと西デヴォンの鉱山景観”が世界遺産に登録されています。Pell mineを含むSt Anges Mining districtもその中に含まれていますので、この標本も世界遺産なところから来たのだなと思うと(無駄に)ありがたみを感じてしまいます。
海岸線に沿って鉱山跡があったりするイメージを持っていまして、いつかきっと訪れてみたいものです。
St Agnesの蛍石としてはWheal KineやTrevaunace mine、そしてこのPell mineあたりが知られていますが、特に結晶にTetrahexahedralな面が表れているものが有名です。
生憎とこの標本では表れていませんが、ネットの海でもTetrahexahedralが強く表れたTrevaunace mineの紫色の蛍石標本をいくつか確認できることかと思います。
なお元の持ち主はコロラド州の地質学者/コレクター。
その彼は、1983年にコーンウォールの著名ディーラーだったSam Weller氏からトレードでこの標本を入手しています。
15 Level, Wheal Jane (Falmouth Consolidated Mines), Baldhu, Kea, Redruth, St Day District, Cornwall, England, UK
46mm×45mm×43mm
目を見張るのはその色。
鮮やかなメロン色と水色のハーモニー、メロンソーダ味とソーダ味のグミ。
産地の希少性とかを忘れて色がすべてといってもいいでしょう。緑と水色って夢のようじゃないですか。
4cmを少し超えた掌サイズの立方体ですが、結晶の角はダメージもしくはコンタクト、あるいは…とちょっと判別に困る見た目。しっかり見ればもう少しわかるのかも。
1991年に閉山したというWheal Jane。その歴史は古く1700年代中ごろから銅鉱山して見出されていようで、断続的に20世紀まで稼働していた様子。
こと蛍石に限ってみてみると、緑の美しい標本や、1990年ごろには緑と紫のバイカラーの美品が出たなどとの記載が手元の書籍には存在していました。
とはいうものの、私自身Wheal Janeの蛍石を見たことはほぼないのですが…。
ちなみにWheal Jane、ラドラム鉄鉱のType Localityなんですって。
Chywoon Quarry, Mabe, Cornwall, England, UK
Collected in Oct 31th 1997 by Nick Talbott
8cm tall
おそらくイギリスの蛍石標本を意識して集めていなければ見聞きしないであろうChywoon採石場の蛍石である。
そもそもがコーンウォールの蛍石標本というだけで入手が容易ではないのが常なわけだが、この標本もご多分に漏れず、"for sale "や"available"とラベルされていることは稀。
にもかかわらずイギリスのコレクターにはかなり知名度のあるもので、1997年のハロウィーンに故Nick Talbott氏が開けたポケットである。Cubooctahedralの紫の蛍石や淡水色のアパタイトが水晶とともに長石にのるもので、この標本も1cmを超える蛍石が複数連なっている。8cmと好みのサイズからは逸脱した大きさにもかかわらず、「手に入れねばならない」と即決せざるを得なかった…
すでに四半世紀が経過しているが、今後Classicとなっていく標本なのだろう。
(2022/11/11)
Bere Alston, Bere Ferrers, West Devon, Devon, England
Loose: 1.04ct
Mined cicra 19th c.
デボンの蛍石とそのルース。
水色と深い青色の結晶で表面はエッチングをうけてかざらついてはいるものの、2面は結晶面が残ったサンプル。色の鮮やかさはそれだけで特筆すべきものですが、何よりこれはデボン、正確にはバーオールストンの蛍石なのです。ちゃんとしたデボンの蛍石標本がとれたのは19世紀ごろまでで今から150年以上は昔のこと、現在では入手できる機会が限られているどころかコレクターでなければ存在を知らないことでしょう。
しかし残念ながらBere Alstonより詳しい鉱山名まではわからないものがほとんどで、これもわかりません。(イリノイで言ったらCave-in-Rockまではわかるけど…といった具合が近いですね) デボンの有名な青いあの標本もやはり鉱山名は不明だったりします。
さらに驚くべきことは同種のサンプルからルースを作るという、神か悪魔かよくわからん所業をしてくださった方達がいるんですよね。こんなヒストリックでめっちゃレアな、カットしにくい蛍石を。
結果も興味深くて、何とも言えないブルーなんです。青い蛍石であってもカットすれば大抵薄いブルーになるんですが、色鮮やかなブルーが残った、1ctアップの綺麗なルース。すごいですよね。
(2019/6/14)