ダラム州の蛍石

 

 Durham州Weardaleにはいくつもの鉱山が存在し、過去数世紀にわたって鉛や蛍石を産出してきました。1900年前後にその最盛期を迎えますが、後に安価な海外産の流入に伴って軒並み閉山を余儀なくされ、現在ではRogerley鉱山が標本鉱山として稼働するのみです。(ここ最近はGreenlaws鉱山も)


この地方にはRogerley鉱山を筆頭に、Heights鉱山・Eastgate Cement Quarry、Boltsburn鉱山、Frazer's Hush、Blackdene鉱山、West Pastures鉱山など綺麗な蛍石を産出した鉱山が数多く存在しています。

これらの蛍石は多くの場合六面体かつ貫入双晶をなすこと、強蛍光であることが特徴的と言えるかもしれません。

また、多くのディーラーが旧Cumbeland州Alstonで営業していたため、古い標本ではCumberlandやAlsotnもしくはAlston Moorとラベルされていることがあります。

ちなみに、イギリスの地名で良く目にするこの"dale"という単語は"丘と丘の間"を意味します。

 

こちらのページでは特にDurhamの中でも有名な産地の物を扱います。

 



Rogerley mine

Bluebirds Pocket Zone, Rogerley Mine ,Frosterley, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England

Mined in August 2014

Small cabinet Sized

 

イギリスはRogerley鉱山の緑色の蛍石。

ジェムと言ってもいいレベルの透明な貫入双晶が母岩の上に幾つも散りばめられた様、太陽光での劇的な蛍光を見ると、古い廃坑だったRogerleyを復活させた気持ちがわかる気がします。

黒ずんだ方鉛鉱を数個ともなっていて、14年8月の新産のものを採掘しているUK Mining Venturesから直接入手したもの。

 

Rogerley鉱山の蛍石は、綺麗な緑色が太陽光で青色へと目に見えて変化することや、その流通量も伴って、イギリスを代表する蛍石どころか世界一有名な蛍石といっても過言ではなくなりつつあるように思えます。

1999年にUK Mining Venturesが引き継いでからよく流通し始めていますが、以前よりも立派な標本が産出されたりもしているというある意味稀有な鉱山です。

しかし、この鉱山に限らずNorth Pennnines一帯の蛍石には強蛍光なものが多く面白いのです。

 

追記;

2015年シーズン・Blue birds pocket zone#2をもってUK Mining VenturesによるRogerley鉱山の採掘は終わりを告げようとしています。なんでも坑道が崩れてしまったとか云々とのことですが、こうなってしまうと以前から毎年ポケットごとに集めておけばよかったとの思いがこみ上げてきます。現金なものです。1999年からの16年間で広く世に出回ったロジャリーの蛍石、その綺麗さによって蛍石収集に目覚めたコレクターの数も数多くいるのでしょう。私もロジャリー鉱山の存在に出会わなければ、イギリスの蛍石を重点的に集める切っ掛けを得られなかったと思います。

 

再追記:

一度は終了を告知したRogerley鉱山ですが、なんだかんだで結局2016年夏も蛍石を掘り始めました。

その後も様々な噂が流れ、2016年のシーズンを最後に一区切りとなったようです。2017年の夏に再度採掘するかどうかは、謎に思えますが注意深く見ていきたいですね。

(2017/2/25 編)

Rat Tail Pocket, West Crosscut pocket zone, Rogerley Mine ,Frosterley, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England

Mined in May  2009

4.5cm edge

A gift from Jesse Fisher

 

ディアナマリア鉱山として稼鉱するようになり似たような標本は未だでまわりますが、ロジャリー鉱山とラベルされた良質な標本は今ではとても入手が難しくなりましたね。

鉱物標本を集め始めた時分、ロジャリー鉱山の蛍石は入門者から玄人まで、幅広くコレクターの胃袋をみたす存在でしたから正直一抹の寂しさを覚えます。こうやってOLD FASHIONEDなコレクターになってしまっていくんでしょうか?(笑)

 

まぁそれはさておき、です。ロジャリー鉱山にもいろいろあるんですよね。ポケット。

特に世界的に評価が高いのが08年~09年のJewel Box Pocketとそれに次ぐBlue Bell Pocketです。これらは現在ではプレミアがつく存在なのです。ほかにも色々あるのですが、緑色の蛍石だけれど殆ど貫入双晶をなさないポケットというのも存在します。それが07年~08年のRat Hole Pocketです。ご存じでしたか?

さらにそのRatちゃんから生えた尻尾が、このRat Tail Pocketです。09年~10年のもので、前述のRat Hole pocketより、より大きく色の濃い、そして殆ど貫入双晶をなさない蛍石というのが特徴です。地表近くのポケットでもあり、10年の夏には崩落し始めたため埋め戻された、そんなポケット。

 

それでこの標本。Rat Tail Pocketなのに貫入双晶なんですよ。ひねくれてるなぁ。すきやで。そういうところ。

 

(2020/12/11)

Sutcliffe Vein, Rogerley Quarry

Sutcliffe Vein, Rogerley Quarry, Frosterley, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

Thumbnail Sized

 

ロジャリーだけどRogerley Mineではないところ、Sutcliffe Veinの蛍石。

変な例えですが、某有名カードゲームアニメの第一作目と第二作目くらい違います。余計わからなくなるか。実際問題、方鉛鉱を伴って綺麗で透明な深緑色の貫入双晶の蛍石と素人目にも玄人目にも区別は難しいものがあるにはあります。ですが産地がちょっと違う。これが本当に大事。

 

このSutcliffe VeinはRogerley鉱山の発見者の一人にして、UK MiningVentures社が鉱山を引き継ぐ前に操業していたCumbria Mining and Mineral Co.の経営者の一人・故Mick Sutcliffe氏に由来するものです。

こちらではRogerley Mineのほうでは珍しい黄色い蛍石や、かつてはとてもきれいな紫色の蛍石がとれたりしています。UK Mining Ventures社がここも引き継いでいたという話ですが、流通している標本をみることは稀。さらにRogerley自体が閉山してしまった今としては…

(2017/8/17 編)

 


West Quarry

West Quarry, Frosterley, Weardale, Durham, England

Collected c.1974-1975 by Lindsay Greenbank

Info by Jesse Fisher

 

ツーソンでRogerley Mineの蛍石として売られていた、慣れない目でみればよくある貫入双晶の一つ。しかし厳密にはRogerleyではない、コレクターズアイテムなんです。

Rogerley Mineは19世紀から20世紀初頭に稼業した小さい石切り場で、1970年代に再発見された産地であることは、蛍石コレクターならご存知のはず。

その後、Lindsay GreenbankとMick Sutcliffeの両氏が再開発を行い、1970年から75年頃にHigh Flat Horizonから幾らかの蛍石を得ています。その中の一つが恐らく、これ。

そしてその次に焦点をあてて開発されたSutcliffe Veinが今でいう、Diana Maria鉱山。

複雑でおもしろいですよね。その上でこの蛍石をみてみると、ロジャリーらしい緑色ですが紫色とより薄い緑色の三色で主に構成されていて、ちょっとロジャリーっぽさがないですよね。

(2018/3/25)


Frazer's Hush

Frazer's Hush Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

58mm×50mm×35mm    Largest = 20mm

 

イギリスを代表する古典的産地、Frazer's Hush鉱山の菫色蛍石。

結晶の一部に欠けはありますが、最大の貫入双晶はジェムクオリティ。

裏面はおそらくシデライトとパイライトに覆われています。

この標本はコレクター放出のオールドコレクションとのことで、以前のラベルがあればなおよかったのですが。

紫外線長波は勿論のこと、太陽光でも菫色から青色へと変わります。

 

Frazer's Hush鉱山では、1980年代から90年代初頭にかけて良質な紫色蛍石を沢山産出していますが、99年に閉山してから鉱山は水没しているようです。

この産地の蛍石も絶産してから長いので、良い標本を見つけるのは結構難しいですね。

 

追記:写真を差し換えました。


Boltsburn Mine

Boltsburn Mine, Rookhope District, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK
Thumbnail Size

キュートなピンキッシュパープルの蛍石。 これはモーブ色とは呼びづらい。
綺麗でくっきりとしたゾーニングを伴って、水晶と菱鉄鉱に一部が覆われていますが、水晶のキラキラ感がまた良い。
ダメージはあるものの、非常にBoltsburnらしい色・透明度・共生な標本ではないでしょうか。

Boltsburn鉱山は19世紀初頭から鉛を目的に操業し、後に質の高い蛍石を産出しレンズなどの光学機器に利用されたりしています。色ととりどりで美しい良質な蛍石標本を産したとして、古典的かつ著名な産地です。その後は経済的な理由から1932年に閉山しています。
部分的に菱鉄鉱や水晶、閃亜鉛鉱、方鉛鉱などで覆われていることが多いのも特徴のひとつです。
ただ閉山してより80年以上経過し、そもそもこの産地の標本を見つけることが困難でした。これもかなり古い標本で、ラベルを見るに恐らくは1900年産もののアンティーク。

 

そして2016年にこの伝説的な鉱山のうちWest Levelが復活したわけです。

(2017/2/25 編)

West level, Boltsburn Mine, Rookhope, Weardale, North Pennines, Durham, England
32mm×30mm×16mm

Mined in 2016

 

Boltsburn鉱山の新産。そう1930年代に閉山してから約85年ぶりに標本鉱山としてよみがえってきたのです。

Boltsburnといえば様々な色の蛍石を出したとはいえ、青紫~ピンク色がメインの中で今回は青色を産出したのです! 青色の蛍石はイギリスのコーンウォールやカンブリア州では認知された色ですが、Weardaleとなると話は別でほぼ初めてのこと。

これはその一例で、水色でくっきりファントムの蛍石と、茶色いシデライトに水晶がまぶしてあります。

茶色いシデライトと、水晶という共生がいかにもBoltsburnらしさを語っていますが、そうこれはオールド物ではなくNew。

ちなみもっと高品質でパープリッシュブルーの照りの良いものも今回出たようですが、そちらは不運が重なり入手できず。残念。

 

イギリスの蛍石鉱山としてはRogerleyに加えて、Greenlaws鉱山とBoltsburn鉱山が標本鉱山として蘇ったわけです。Greenlawsの蛍石は一昨年頃より出回っていますが、今後はBoltsburnの蛍石もきっと各地のミネラルショーで見かけることとなるでしょう。

(7/16/2016)

West Level, Boltsburn Mine, Rookhope, Weardale, North Pennines, Durham, England

Miniature Size

Mined in 2015

 

青灰色の蛍石を掲載した2年ほど前に、やや感傷的にBoltsburn鉱山の一部が復活したことを書いたわけなんですが。実はその前からBoltsburnが復活したことを知っていて、入手していたんですよね。これ。

今は亡きJohn Vが2016年のツーソンにてBoltsburnの蛍石が復活したとちらっと話題に載せていて、そこで入手したんです。今でこそ菱鉄鉱を伴ったごく淡い紫に青が加わった蛍石を容易にイメージするようになったと思いますが、当初は青い蛍石は出回らなかったように記憶しています。灰色に近い色のようなものや、綺麗なグリーンブルー、あとはこの標本のようにカラフルなゾーニングがきれいなもの…ということでゾーニングがきれいなものをピックアップしたのでした。

これにもBoltsburnらしく菱鉄鉱がついていたり、あまつさえ内包していたりで、これはこれで私好きです。

後に、Boltsburnの蛍石をツーソンへもっていった業者に直接連絡を取ったものの、良い蛍石が残っていなかったり、最終的にはBoltsburnを復活させた人物を知ることになるわけですが、それはまた別のお話なのでした。

 

(2018/12/1)



Heights Quarry

Heights Quarry, Westgate, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK
33mm×27mm×24mm


緑色&貫入双晶で有名なHeights Quarryの蛍石。
イギリスの緑色蛍石で二番目によく見るのがこの産地の物だと思います。
少々薄めの緑色でダメージもありますが、1~2cmサイズの貫入双晶がいくつも見られます。

母岩の両面にエアリアルについているため、360度見栄えがいい標本。


透明感もよく紫外線長波で蛍光しますが、Rogerleyほどではありませんし、色もRogerley等にくらべると浅い緑色な気がします。

この産地は1970年に閉山したHeights Mineの目の前で採石場として稼働しているのですが、
採石場の拡大にともなってHeights Mineの一部に繋がっているんだとか。ややこしい
なおHeights Quarryからは緑色の蛍石だけでなく、ライラック色~無色の蛍石も産出しますがこれがまた綺麗。



Heights Mine

Heights Mine, Westgate, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK
44mm×33mm×27mm

Ex. George Farr Collection


HeightsはHeightsでも、Quarryではなく鉱山の方のHeights。

無色透明~ほんのわずかに紫色に色づいた非常に大粒で、何よりも綺麗な貫入双晶のクリスタル。


ロシア・ダルネゴルスクの無色透明を思わせるほどに透明な面と、表面がわずかにフロストがかった面を併せ持っており、無色透明の結晶の常か非常に写真が難しい代物。実物の半分も魅力が伝わっていないんじゃないだろうか…というぐらい写真が難しいです。

ちなみに単に無色というだけではなく紫のゾーンが複数存在しており、どれだけ見ても飽きません。

 

結晶形も単なる貫入双晶ではなくモディフィケーションがでていたり、表面の模様が面白かったりと魅力満載。

さすがはイギリス人歯科医師(だったと思う)の往年のコレクションからでてきたもの。すごい。

Heights鉱山自体は19世紀半ばから20世紀にかけて稼働していた、緑や無色~紫の非常に質の高い蛍石を産出したことで著名な産地です。

Heights Mine, Westgate, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

Collected by Richard Barstow and Ralph Sutcliffe, in 1970's

72mm×60mm×35mm

 

イギリス・ダラムの有名鉱山であるHeights鉱山。

今では「イギリス、緑色の蛍石と言えばロジャリー鉱山!」と蛍石界隈どころか鉱物標本界のスタンダードと言っても良いレベルで認知されていますが、「イギリス・緑色の蛍石」においてHeights鉱山はロジャリー以上に歴史をもった鉱山と言えるでしょう。

 

やはり高い知名度を得ているだけあって、この標本も美しくも青みがかった緑色の蛍石が散らばっています。幾らかの結晶に欠けを認めますが、最大で15mmほどの透明度抜群・照り良しの宝石質と言ってよい結晶群は圧巻です。ここまで透明ですと寒天ゼリーみたいにみえますね。

そして勿論このWeardaleの蛍石の特徴として、貫入双晶や強蛍光性を兼ね備えています。

 

 

こうなってくるといつも問題になるのは私自身の撮影技術と(恐らく機材も?)であって、実物はこれよりずうっと綺麗ですし透明なのです。


Blue Circle Quarry

Eastgate Cement Quarry (Blue Circle Cement Quarry), Eastgate, Weardale, County Durham, United Kingdom

29mm×27mm×25mm

 

Blue Circle Quarryの良品。

14年ツーソンショーでのオールドコレクション放出をハンズのイベントで購入。

サイズ、色、形すべて申し分なく、ただ綺麗のひと言。

よくみると、結晶の端にhexoctahedralが出ています。

この産地としてはそこそこ珍しく、これだけしっかりと見るの初めてでした。

 

この産地はRogerley、Heights Mineに続く緑色蛍石産地として知られていますが、2002年に閉山しています。

上記の2鉱山と比べると中心部に紫色の部分を伴うことが特徴的です。

また特に、Wear川を挟んでお隣のHeights Mineと比べると、Blue Circle Quarry側では泥中に含まれる酸によって表面がエッチングされるため良質の標本になりにくいんだとか。

ただし、この産地から緑色系統の蛍石しか出ないかといえばそうではなく、綺麗めの薄黄色をした蛍石等も産出しています。

 

 


Eastgate Cement Quarry (Blue Circle Cement Quarry), Eastgate, Weardale, County Durham, United Kingdom

24mm×25mm×27mm    Largest = 24mm 

 

Blue Circle Cement Quarryの貫入双晶。

ただ典型的な緑と紫色のものではなく、黄色いタイプの蛍石。

黄色い蛍石ですが、よく見ると紫と緑のゾーンが結晶の端に現れています。

緑色のタイプのように宝石質!というわけではなく半透明に見えますが、これは恐らく表面がエッチングによってざらついている為で、内部自体は透明で一部実際確認できます。

表面がエッチングされることは、この産地では良くあることのようでそういった意味では典型例かもしれませんね。


Blue Circle Quarryは緑と紫色のまるで宝石のような蛍石が特に有名ですが、黄色い蛍石もレアではありますが、産出していたようです。


Blue Circle Quarry Fluorite

Billing's Hill Vein, Blue Circle Cement Quarry, Eastgate, Weardale, North Pennines, Co. Durham, UK             

Colleceted in 12/1997

38mm×28mm×12mm   Largest crystal=9mm

 

Blue Circle Cement Quarry産として入手したものです。

青緑色と紫色をした透明な結晶が、石灰岩を母岩として可愛く集合しています。また、日光により蛍光し、内部がより紫色へと変化します。

上の標本と比べると状態は良くありませんが、こちらは母岩が確認できます。

 


購入した際についていた二種類にラベルの片方にはBilling's Hill Vein, Cement Works, Eastgateと書かれていました。

このCement Worksとは恐らくですが、Blue Circle Industries社のWeardale (Cement) Worksのことを指すので、こちらも2003年に操業停止したBlue Circle Cement Quarryを意味します。

ですのでその中のBilling's Hill Veinという部分なのでしょう、Mindatなどに記載のあるBlue Circle Cement Quarryの近傍にあったとされるBilling Hill鉱山と同じなことなのか、それとも違うのかはちょっとわからない。つらい。


Middlehope Shield Mine

Middlehope Shield Mine, Westgate, Stanhope, Co. Durham, England, UK

Mined c. 1818

Small Cabinet Sized

 

「Middlehope Shield Mine?聞きなれない鉱山名だな」「WestgateだったらHeights鉱山とかじゃないのだろうか」などと思われたコレクター諸氏。その疑問は何ら間違っていないのです。

というのはこの標本はもう今から200年以上昔の標本なのです。ですから、現在では全く聞きなれない、RogerleyやDiana Mariaなんかに比べたら知名度がすこぶる低い蛍石であって当然なのです。そしてそういう経緯ですから旧い標本ではよくあるようにHeights鉱山とミスラベルされることも往々に…というかことこの鉱山に関しては、もはやミスラベルされているかWeardaleとだけ表記された標本のほうが圧倒的に多いのかもしれません。

しかしこうも思われるかも知れません。「200年前の標本と言われてても、同じようなイギリスの緑の蛍石だし一体見た目でどこが違うのだ?」と。

Middlehope Shieldの絶対的な特徴はエッジです。エッジが丸みを帯びているのです。この標本でもよく観察できることでしょう。そしてこちらは写真ではわかりづらいかもしれませんが、紫色のラインが入っていることが比較的多いことも特徴の一つです。ぜひ探してみて下さい。

(2020/1/10)


Greenlaws Mine

Leopard Pocket, Greenlaws Mine, Daddry Shield, Stanhope, County Durham, England

Miniature sized

Collected in March 2019

 

この数年間で見かけるようになったGreenlaws 鉱山の蛍石。

Rogerley鉱山が一度閉山したことにより商業レベルの蛍石標本鉱山がなくなったかに見えたDurham地方でしたが、結局イギリスの大手鉱物商であるCrystal ClassicsがRogerley一帯をDiana Maria鉱山として引き継ぎ、それと前後して各々別グループの手によってBoltsburn鉱山やこのGreenlaws鉱山からもコンスタントに蛍石標本が供給されるようになりました。

 

元々は19世紀後半に稼働した古い鉱山です。イギリスの蛍石に少しでも興味を持つコレクターなら名前は知っているでしょうし、時々コレクターの手で採集された標本がでまわったため比較的新しい標本を目にしたことがある人もいるかもしれません。今回2010年以降に再稼働を目指したグループの努力が実り、近年ようやく安定供給へと至ったのでした。

くすんだものから鮮やかなものまで含めた紫色、あるいは琥珀色とまでは言えないような黄色がGreenlawsではよくあるカラーです。そして例にもれず強蛍光。

これもそんな一標本です。ただこれは裏面が再結晶したいわゆるフローターの標本ですが。

 

ネット上のやりとりを数年前からしていた採集グループのリーダーと今年のミュンヘンショーで直接会って話す機会を得ました。いわく、Greenlawsにも紫と黄色だけではなく、色や形にも様々なバリエーションがあるのだとか。そのうち彼らが”Funky"と称していた蛍石がどこかの鉱物雑誌の紙面を飾ることでしょう。

(2019/11/15)


Blackdene Mine

Blackdene Mine, Ireshopeburn, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

Mined in 1974, Attr: the Slitt Vein

Ex. Ian Jones collection,  photo by Kiyoshi Kiikuni

Small Cabinet Size

 

Weardaleの中ではFrazer's Hushと共に紫色の蛍石で知られるBlackdene鉱山の標本。

最大2㎝の宝石質から半透明の貫入双晶が母岩にのる贅沢なもので、太陽光にあてたときその真価は発揮されます。Blackdeneで宝石質というのはFrazer'sと違って中々ないのです。

今回はKey's Mineralsの紀伊国さんに撮影をして頂きました。プロが撮影するとやっぱり違いますね。

 

少なくとも15世紀初頭には採掘がおこなわれていたというBlackdene鉱山ですが、蛍石とともに良質な方鉛鉱を産したことで知られます。特に1973年以降のthe Blackedene Veinが枯渇し、the Slitt Veinのさらなる開発が行われてから1987年の閉山までの間に、良質な蛍石標本を産したとされます。

ですが、現在ではその良質な蛍石標本を見かける機会は非常に少なく、稀に産したという黄色や緑色の蛍石を見かける機会など皆無と言ってよいでしょう。私も欲しい。そういうったことを勘案すると、採掘年がわかることも含め見ごたえのあるBlackdeneのサンプルではないでしょうか?

前の持ち主であるIan Jones氏はイギリス産鉱物コレクターとして著名な方。ツーソンでのコレクション放出物を入手できたのでした。

 

(2017/2/25)



West Pasture Mine

West Pasture Mine, Stanhope, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England

80mm×40mm×25mm

West Pasture鉱山のちょっと大きめの標本で、非常にこの産地らしい色合い、共生、母岩をもっています。


青りんごゼリーのような、若干の青みを帯びた緑と黄色つよめの黄緑のバイカラーとなっており、米粒のような水晶がまぶされています。
もう一つの標本でも書きましたが、どうやらこの産地は貫入双晶になることが少ないというイギリス蛍っぽくない特徴をもっているようで、この標本にもぱっとみてわかる貫入双晶はありません。
また下記の標本にくらべて青緑が強いため、直射日光にあてつづけていると段々茶色っぽくなってしまうのかもと思われます。

この産地の蛍石はイギリス・Weardaleの中でもちょっと個性派だと私は位置づけているのですが、古い鉱山にもかかわらず一応現在でも採集が可能なコンディションのためこれからも細々と流通していくのでしょう。



Cambokeels Mine

Cambokeels Mine, Westgate, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK

Ex: Harold M. Michel collection #671, Prev: Robert Sullivan Collection

Miniature Size

 

Weardale地方の中でまずまず有名な鉱山のひとつであるCambokeels鉱山の標本。

深いグレープに色づいた蛍石を、特定の面だけピラミッドのような水晶が覆っています。

上述のFrazer's Hushや、BlackeDeneとはまた少し違った色合い紫です。水晶のキラキラぐあいと合わせて可愛い系かもしれません。

 

この標本の由来を辿るとわりと古い物のようで、以前の持ち主であるアリゾナ州のコレクターHarold  Miche氏は1982年の3月にこの標本を更に前の持ち主から入手しています。

入手した当初、Cambokeels鉱山が閉山する1989年直前に340Levelでこれに似た濃い目の色合いの蛍石が産出しているという文献があるので恐らくそこでの産出だと思っていたのですが、その当ては外れてしまいました。古くは1870年頃より散発的に鉛鉱山として稼働しており、その後蛍石鉱山として再開した1969年から70年代にかけての産出なのでしょうか。

ここの古い呼び名のひとつにCammock Eals Mineというのがあるのですが、以前の持ち主のラベルにもCammock Eals Mineと記されていたので古いのは古いのでしょう。謎は謎を呼びます。

ちなみにこの鉱山ではとても透明なアイスブル―の蛍石も知られ高く評価されています。

(2017/2/25 編)


Hollywell Mine


Hollywell Mine, Frosterley, Weardale, North Pennines, Co. Durham, England, UK 

Miniature Size

 

Hollywell鉱山の蛍石としては、色と透明度の点でかなりハイレベルな結晶。

そもそもが30年以上前に閉山したとされる鉱山であり流通も乏しく、見かけてもこの地方ではよくある表面が白いもやもやに覆われ…という標本が多いのです。そんな中、この透明感・ゾーニング・鮮やかな緑と紫というのは見つけたとき驚きました。

 

エメラルドグリーンと渋い紫の組み合わせはゾーニングがはっきり表れており、Frazer's HushやBlack Dene鉱山の緑色の物とよく似ているという印象を受けます。 標本の端に付着する黄銅鉱も良いアクセントです。

Weardaleの蛍石の売りである強蛍光はこれにも当てはまり、太陽光でも蛍光して若干青みを増します。 さらにボーナスとしてhexoctahedronによるModificationが確認できたり、水&バブル入りと要素を詰め込みすぎましたね、これはいけません。

あとはダメージさえ少なければ完璧だったんですけどね。記憶が正しければ2015年のツーソン物。

(2017/2/16)