ギリシャの蛍石
ギリシャの蛍石というとKamariza鉱山やMaria鉱山といったLavrion(ラウリオン/Λαύριον)が有名でしょうか。
ラウリオンにある鉱山は紀元前600年からの昔の古代ギリシア時代、つまりは気の遠くなるような昔に銀鉱山として開発されたといいます。都市国家アテネの資金源ともなり、有名なテトラドラクマ銀貨もラウリオンの銀が使われていたと思うと、鉱物収集と世界史の親和性って存外高いと思うばかりです。その後はローマ時代に一度終焉を迎え、19世紀半ばに鉱山として再開発されるも1984年までにはラウリオンの鉱山はすべて閉山したのだ。という風に記載されています。 なんにせよ、ギリシャの蛍石は市場においてそれほど見かけるものではありません。ですが産地としては非常に興味深く、ギリシャ産蛍石の特徴をひとつだけ挙げるならば紫系統の蛍石が非常に多いことがあると思います。
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Christiana Mine, Kamariza Mines, Agios Konstantinos, Lavrion District Mines, Lavrion (Laurion; Laurium), Attikí, Greece
60mm×53mm×53mm
Ex.Wolfgang Wendel Collection
冒頭のギリシャに関して書いた文章中にもあるKamariza Minesを構成する一つ、Christiana鉱山の蛍石標本。
黄緑色のダフト石との共生が非常に目立ちますが、そのほかにもアズライトやマラカイト、灰色に色づいた方解石と共生しています。
蛍石の色合いとしてはギリシャらしい紫系統の色合いと言えますが、イギリスの蛍石とも近いようなあんこ色です。加えて、ダフト石を含有していると思われる緑のファントム、ダフト石に覆われてしまった蛍石、あるいは蛍石自体の紫→無色→紫というファントムと非常にカラフルで示唆的です。
また360°どの方向から見ても違った表情を見せてくれ、非常に飽きることのない面白い標本です。独特ですね、ギリシャ。さすがはギリシャ。古代ギリシャ人もきっとこのLavrionの蛍石の面白さに魅せられたことでしょう。銀鉱山なんだから銀にしか目がいかなかっただろうとか、奴隷が沢山使われていてそんな余裕なかったのでは?とかそういう現実的なことを突っ込んでいけないのはお約束。
以前の持ち主はドイツ人鉱物標本商のお方。ギリシャ、Lavrionに何回も採集に行かれている様子なので、もしかするとご本人が採集してきた標本なのかもしれません。
Megalo Livadi, Serifos Island, Milos, South Aegean, Greece
Collected in 2013
ギリシャ神話においてはダナエーとペルセウスが漂着したのがセリフォス島ですけれども、鉱物界のなかでは緑水晶でしられるセリフォス島です。蛍石もでてくるんですねぇ。
ただも元々セリフォス島はギリシャの蛍石産地としては有名ではなく、ましてやこんな貫入双晶が出てくるとは思いませんでした。ただでさえギリシャの蛍石で貫入双晶って皆無ですからね。
貫入双晶や、淡いシャンパンカラー、菱鉄鉱という組み合わせは、イギリス・ノーサンバラード地方のBeumont鉱山DianaVeinによく似た印象をうけますが、蝕像の具合は同地の蛍石とはちょっと違う風体です。蝕像だけをかたるならばむしろ、1960年代のこれまたイギリス・カンブリア地方のHilton鉱山の蛍石がよく似ていると言えるでしょう。なんにせよ、一見イギリスっぽいなという印象をうけますが、要素を整理すると「あー、でもイギリスで全く同じような蛍石はみたことないかも」と結論付けたくなる。そんな蛍石でした。
結局のところ、ギリシャの蛍石で貫入双晶という要素だけで、蛍石コレクターとして飛びつかざるをえなかったわけです。
(2020/7/10)