ザクセンの蛍石

 

 ザクセン州は旧東ドイツ側で、ドイツの東端に位置しチェコやポーランドと接しており、ザクセンという名前は世界史が好きな人にはなじみ深い名前なのでしょう。

ザクセン州(saxony)の蛍石はドイツの中でも黒い森のものと共に双璧を成します。その色合いは、黄色や、褐色、琥珀色、はたまた濃紫色のもの等が多い気がします。産地についてはただ単にSaxnoyやFrohnauとだけラベルされたものも多く、コレクターとしては”これは一体どの鉱山のものなのだ?”と思うことが多々あります。しかし、鉱山がこの一体に集中しているので仕方がない事かもしれませんね。

詳しく見ていくとSaxonyの鉱山だけでもキリがないのですが、その中ではBeihilfe鉱山やDörfel Quarryのものが個人的には好みです。


Beihilfe Mine

Beihilfe Mine, Halsbrücke, Freiberg, Erzgebirge, Saxony, Germany

4.5cm wide

Mined c. 1964

 

青い蛍石。うん、大好物ですよ。

貫入双晶。えぇ、最高ですわね。

でも、在り来りなセールスネームありきのデコデコや、放射線処理されてる真っ青ちゃんはもう見飽きたあきたと?贅沢なことを言われますね、あなた。でもまぁ、確かによく見かけますから需要があるのです。あな、げに難しき。こうしてレトロブームへの潮流が生まれるわけですか。懐古厨とも言うかもしれません。

そんなわけで、ここに掲載した蛍石も在り来りなものです。先達のコレクションや、有名雑誌では在り来りな標本です。なのに、入手しようと思うとめっちゃ難しい。バグってませんか?1964年頃に産した"Die Blaue Druse"と呼称される青い蛍石です。貫入双晶です。かっこいいやつです。

閃亜鉛鉱や黄銅鉱なんかと共生するのですが、この標本でもまぁそんな感じです。問題は滅茶苦茶褪色しやすいんです。褪色すると色ぼけた灰色になるのです。そして古い標本ですから、保存状態の良いものがこれまた少ない。そう考えるとこの標本、60年近い歴史の重みを背負いつつも、本来の鮮やかな濃青が保たれていて、尚かつダメージも決して多くない。完璧からは程遠いけれども、決して全然全く悪くない。とても良い標本です。近年多く出回る「プレタポルテ」な蛍石のうちどれくらいが半世紀後に丁寧に保存され、色褪せていないのかと勝手に偲びつつ、この蛍石を大事にキャビネットの奥へとしまうのでした。

(2022/12/23)


Beihilfe Mine, Halsbrücke, Freiberg District, Erzgebirge, Saxony, Germany

8cm×6cm×3cm  Largest = 12mm

Ex: Jesse Fisher Collection


ドイツの有名な産地の一つ・Beihilfe鉱山の蛍石&水晶。

レモンイエローのとても綺麗な蛍石が水晶の上に幾つものっています。

透明度はたしかに完全な透明ではなくトランスルーセントぐらいなのですが、このビビッドな黄色と白い系の母岩とのコントラストが目を引きます。


この標本は面白い経歴もある標本で、元々はロジャリー鉱山で著名なJesse Fisher氏のコレクションで、その次に日本のとある鉱物商の手に渡り、そしてオランダのコレクター兼ディーラのLeon Hupperichs氏のコレクションとなっていた標本です。


このBeihilfe鉱山は青い蛍石や黄色い蛍石、そして緑鉛鉱で有名な鉱山です。しかし、閉山してから長いのか市場にはそれほど出回りません。もっと出てくれれば言うことがないのだが…




Shaft 78

Shaft 78 (Nowaja Shaft), Schottenberg, Frohnau, Annaberg-Buchholz, Annaberg, Erzgebirge, Saxony, Germany

32mm×30mm×13mm


Shaft 78, ドイツ語ではSchacht 78、訳するならば78番縦坑。


フランス・Puy-St-Gulmierに近い鮮やかなブルー、1cmに満たない小さい結晶の集まり。この青色は毒々しさを感じるソーダブルー、あるいは切子グラスの青に近いのでしょうか。なんとも形容しかねます。

しかし、ここ特有の美しさに心を奪われた経験をお持ちの蛍石コレクターはきっと多いはずです。


この標本も非常にShaft78らしい見た目で、5mm程度の結晶が集まったものです。ルーペで観察してみると実は中心部は淡いイエローグリーン。エッジの部分にある鮮やかな複数の青ゾーンと重なって、Shaft78独特のカラーになるようです。


もとはFohanauを中心にあつめているドイツ在住コレクター由来のオールドコレクションなのですが、そのラベルには ”Mehrfarbig" zoneと言及されていました。無理に日本語にすれば "彩なす青" になるでしょうか。


ちなみにネット上のデータベースを参照する限りでは、1947年から1956年まで稼働していたウラン鉱山のようで、Nowaja Shaftとも言うようです。


Bergmännisch Glück

Bergmännisch Glück Flacher Vein, Frohnau, Annaberg-Buchholz, Erzgebirge, Saxony, Germany

Miniature Sized

Collected in 2016

 

2016年に産出し一躍話題となった、青いゾーニングが特徴的な蛍石。

Frohnauらしい山吹色がベースとなっていて、紫のゾーンとともトリカラーと呼べないこともない、そんな感じ。細かな黄銅鉱と共生していることが多いのですが、この標本ではそれに加えて重晶石も共生しているのがちょっと特別かもしれません。

すこし突き出した重晶石を串にみたてて、ロリポップキャンディっぽいなぁと。

2019年現在ではかなり見る機会も減ってきており、これはある意味その残滓を採集者から回収してきたのでした。

(2019/4/19)

Bergmännisch Glück Flacher Vein, Frohnau, Annaberg-Buchholz, Erzgebirge, Saxony, Germany

Small Cabinet Sized Sized

Collected in 2018 (Maybe April to May)

 

2018年の春過ぎに開いたポケットのもの。

彼の地のコレクターが蜂蜜と形容する黄色と、実は内部は濃紫色というFrohnauらしい色の組み合わせで、そこは特筆すべきポイントではないのかもしれません。あるいは共生するより薄い黄色の重晶石や、腐食を受けている方鉛鉱も同様でしょう。

特筆されるべきはこのポケットからでた結晶のサイズです。この標本では最大で60mmほどですが、より大きい標本では結晶辺が100mmを大きく超えるものもあり、これはBergmännisch Glückでは非常に珍しいのです。

(その結果かなり高価な価格設定をされることにもなりましたが…とほほ…)

なにはともあれドイツらしい、重厚感のある蛍石でした。

(2019/8/9)

Bergmännisch Glück Flacher Vein, Frohnau, Annaberg-Buchholz, Erzgebirge, Saxony, Germany

60mmx37mmx24mm

Mined c. 2005

 

Saxonyといえば黄色い蛍石や、青色、緑色などが有名ですが、これはマルチカラーの蛍石。

この光を当てた際のレインボーのような色合いはBergmännisch Glück Flacher Veinで2005年ごろに産出したものに特徴的で、これも十中八九そこからの産出なのでしょう。数か所で2009年新産であるとも見かけました。

 

表面が赤鉄鉱?に覆われていますが、光にかざすと緑を中心とした、青や紫、黄色のグラーデーションが確認できて幻想的。

写真以上に綺麗なものなので、ぜひ実物を探して見てほしいところ。

また、骸晶もよく発達しています。

 

Bergmännisch Glück Flacher VeinはBergmännisch Glück Mineの一部で1837年に閉山していますが、この一帯が二次大戦後にウラン鉱山として稼働した際に、運搬・換気用として利用されていたようです。

 



Zinnwald

Zinnwald, Erzgebirge, Saxony, Germany

(Cínovec,Krusné Hory Mts, Bohemia, Czech Republic)

62mm×55mm×20mm


ドイツとチェコとの国境にまたがる古典的有名鉱山の蛍石と黄銅鉱。

ドイツ側はツィンバルド(錫の森との意味)、チェコ側はシノベッツと読み錫やタングステンを採掘していたり、チンワルド雲母が有名な産地でもあります。


この標本はドイツらしく濃い紫色をした蛍石ですが、とても精緻なステップとなっていていわゆるアステカピラミッド。ただ濃い紫とはいっても黒いというほどでもなく…、後ろから光をあてると綺麗な紫が確認できます。

私の手に渡ったときには以前の持ち主のラベルが3枚付属していて、所々に欠けがあるのは時の流れを考えると仕方ないのかな?なんて思います。

今回はそれらのラベルが、すべてドイツ側の表記であったのでそれに倣いドイツ側の産出としています。



Sauberg Mine

Sauberg Mine, Ehrenfriedersdorf, Erzgebirge, Saxony, Germany

42mm×24mm×20mm

 

黄色を基調として、少しメタリックで緑や桃色が混ざったちょっと複雑な色合いの蛍石。

入手時の画像では桃色に近いような色がメインにみえ実物は少しイメージが違いましたが、これはこれで。 白いバライトに側面を覆われ、見る角度によって表情が違います。さらにその上にのるのは黄鉄鉱と、紫色の粒はフルオロアパタイトでしょうか?

この鉱山の蛍石で市場で見かけるものは紫色から黄色がメインですので、これもその幅内といってもよいでしょう。

 

Sauberg鉱山は1990年まで操業していたスズ鉱山で、ドイツの古典的産地として有名なところ。

フルオロアパタイトのType Localityでもあり、現在もTourist Mine(観光鉱山でしょうか)として存在しているようです。

この標本もサムネイル・ボックスに古びたラベルが張り付けられていましたが、残念ながらいつ頃産出の物かははっきりしません。

Sauberg Mine, Ehrenfriedersdorf, Erzgebirge, Saxony, Germany

4cm tall

 

このブログを長年見ている方ならお気付きかもしれませんが、そうです、好きなんですよこういうの、水晶の上を蛍石が彩るというか。

変哲のない水晶を1mm~2mmの細かい蛍石で紫の下地をつくって、きらびやかな黄銅鉱とすこしくすんだ菱鉄鉱をたして黄色の強弱をつける。化粧みたいじゃないですか?

Saubergはアパタイトでもよく知られる地です。そのうちアパタイトの共生標本も載せようかと思っています。

ところでこれ産地を言われなければ、パナスケイラに見えてきませんか?いやパナスケイラじゃないですよ?

(2020/4/3)

 

Ehrenfriedersdorf, Erzgebirge, Saxony, Germany

Miniature sized

3cm xl

 

チェコ国境のほど近くに位置するエーレンフリーダースドルフ。そこには13世紀頃から開発された錫鉱山が存在しています。その代表例は1990年に閉山したSauberg鉱山ですが、この一帯から産出した蛍石やフッ素燐灰石はドイツの古典的標本として、欧州で高く評価されているものです。つまり、言い換えると、ドイツの外では良質な標本を入手するのが困難という事です。

これまでなかなか蛍石がメインと言えるようなちゃんとした標本が入手できませんでしたが、これは文句なしに蛍石の標本ですよね。ね?

ピンキッシュパープルの階段状に成長した蛍石はメキシコのSan Antonio鉱山や、中国湖南省のShangbao鉱山などをすこし思わせる、しっかりとした蛍石です。しかも3㎝も結晶あるんですよ。

(2023/4/23)