日本の蛍石 (Fluorite from Japan)

ここ日本においても様々な産地で蛍石が産出していました。

全てがすべて海外産と比べても遜色がないとは言えないかもしれませんが、綺麗なものも多く産出しています。

大分県の尾平鉱山や豊栄鉱山、岐阜県・平岩鉱山和歌山県・大塔鉱山、福島県・蛍鉱山などをはじめ兵庫県や三重県など幾つかの産地が良く挙げられています。




岐阜県平岩鉱山

岐阜県 関市 上之保村平岩 平岩鉱山

Hiraiwa Mine, Seki City, Gifu prefecture, Japan

50mm×40mm×40mm  Largest = 3mm

第36回名古屋ミネラルショーにて購入

 

有名な岐阜県平岩鉱山の蛍石。

色は紫色で、小さいけれどもしっかり自形結晶になっています。

形はなんだか丸み帯びている感じです。もう少し大きければしっかりわかるのですけれど…

石英の隙間に紫色の蛍石がプチプチとついているのがとても良いコントラストで、海外産の大きな結晶とは違ってこれはこれで趣があります。

 

この平岩鉱山は戦後に開発された鉱山で、昭和48年に閉山したとのこと。

この産地の物には石英の隙間に小さい自形結晶が付くタイプがあり、これはその典型例といえると思います。これはコレクターの方が00年~05年ぐらいに採集されたもの。


蛭川村田原(岐阜県)

岐阜県 中津川市 蛭川村 田原 (旧恵那郡蛭川村)

Tawara, Hirukawa, Nakatsugawa City, Gifu prefecture, Japan

Thumbnail Sized

 

岐阜県・田原の蛍石。

色は無色透明から若干緑色がかっている気がしないでもないです。

国産というだけでもポイントが高いのに、照り・透明度ともにとても良く、形もしっかり八面体の自形結晶が3個つらなっているナイスなサムネイル(一部にa面も確認できます)

 

お店の方によると、石切場が稼働していた往時の産出品とのこと。

中々このレベルのものは今採れないんじゃないだろうかと、考えてしまいます。

岐阜県 中津川市 蛭川村 田原

Tawara, Hirukawa, Nakatsugawa City, Gifu prefecture, Japan

4cm tall

 

ほぼ無色、ごく淡く緑色の八面体式蛍石はおおよそ1cmほどの大きさになり、双晶となった微斜長石の上に鎮座しています。ほか、煙水晶などを伴う国産の蛍石標本とすれば決して悪くはない標本です。

こと蛍石に関しては、いくつかの例外を除き、国産の標本は色の派手さや大きさで海外産に及ばないと言わざるを得ません。だからといって蛍石コレクターとして国産の蛍石を集めなくていいわけは到底なく、むしろいくらでも欲しい強欲な壺状態なんですけど、やっぱり「良い」標本は入手がとても困難なんですよね。

そういう状態ですから海外のseriousな蛍石コレクターも日本の蛍石を欲しがりますし、あるいは見たことないなんて人もいますから、情報を発信していく意義はおおきいかと。

 

(2021/8/6)



和歌山県大塔鉱山

和歌山県 田辺市 大塔町 大塔鉱山

Oto Mine, Tanabe-shi, Wakayama prefecture, Japan

60mm×30mm×25mm  Largest = 8mm


和歌山県の有名な蛍石産地、大塔鉱山の蛍石。

形は無色~薄い緑色で八面体(正確には六面体+八面体)になっています。

結構大きい目の八面体なので目をひくというか、目をひかれたので記事にしようと思った次第。

そして何より、強蛍光性を示します。紫外線長波で綺麗に青白く光るので面白い。八面体、強蛍光、緑系というとスペインのバルセロナのあれを連想してしまいますね。


この大塔鉱山は国産の蛍石鉱山の中でも有名なもののひとつで、昭和20年代から稼働していた鉱山とのこと。とくに強蛍光することで有名で、採取にいかれた知人の話では、雨上りのあと一面が怪しく太陽光に照らされて蛍光したりとか云々。


生野鉱山

Ikuno Mine, Asago City, Hyogo Prefecture, Japan
兵庫県朝来市生野町小野 生野鉱山
1.5cm tall

生野鉱山の蛍石標本です。
しかも、しっかりとした来歴のある。淡緑色の。
多少なりとも蛍石に心得のある人間であれば、中国湖南省Huangshaping鉱山の角閃石を内包したアップルグリーンの蛍石が想起される見た目なわけですが、れっきとした、生野鉱山の、蛍石なんです。
これには海外の日本の蛍石好きなオタクフレンズも大喜びでした。そりゃそうだ。
生野鉱山の蛍石は淡水色から淡緑色や無色のものなどが知られていますが、入手できる機会に巡り合えることはかなり稀です。やったぜ。

(2022/8/5)

Kanagase, Ikuno Mine, Asago City, Hyogo Prefecture, Japan
兵庫県朝来市生野町小野 生野鉱山金香瀬

Mined c. 1912-1926

5.5cm wide

 

思えば今年は日本の蛍石を多く入手できたように思う。ヒトたるもの達が必ず堕ちるといわれる六道輪廻が1つ、蛍石道に投身したのが10年の昔。最初の12年は国産の蛍石を比較的努力して探していた気がする。しかしである。電子の海を介して、あるいは海外の書籍を介して、またある時は海外のコレクター諸氏を通して、海外の蛍石に圧倒された私はいつしか国産の蛍石を積極的に集めなくなっていた。なるほど、確かにこのちっぽけな島国を飛び出して見聞する蛍石には圧倒的な多様性があるのだ。何を井の中の蛙をしている必要があるのか。そう思うようになった私はもう完全にルビコン川を渡りきっていた。当然賽は投げられ出目は7だった。色、形、共生、毎月のように現れる新産地、寛容で脈々と引き継がれ広大な拡がりを見せるコレクター文化。これを見聞きして周り、イギリスの蛍石に入れ込み、イリノイ州の蛍石の鉱山を書籍を買い漁って堪能し、パナスケイラ鉱山のちょっとしたサブコレクションを形成し、現在では入手不可能と称される歴々に悶絶し、、、ふと気付けば8年が経っていた。海外の蛍石はちょっとわかるようになった。と、思う。そんな折、尾平鉱山の1950年代に海外流出した標本を海外のオークションで購入を試みたのだが、残念ながら諸般の事情により入手出来なかったことと、カリフォルニア州のある蛍石コレクターからとてもいい尾平鉱山の蛍石を見せられたことが重なったのだ。わかるだろうかこの渇望が。ヒトは自らに欠けたものを、欠損を追い求めるのだと。それは人間関係においても、蒐集においても不変であり普遍なものなのである。蛍石道から海外の蛍石ちょっとわかるで抜け出せる訳もなく、当然振り返り、引き戻されるのである。なぜならここは六道輪廻のひとつだから。そして足尾銅山の蛍石を入手できたことを皮切りに、気づけばこの1年間は頻繁に国産蛍石を入手していた。時が満ちたのだろう。今回は生野鉱山の蛍石を手に入れることが出来た。しかも戦後のものではなく、大正年間のものである。この鮮やかな青緑色。僅かに太陽光でカラーシフトし、モロッコのEl Hammam鉱山と嘯いても恐らく10人中9人は気づきもしないであろう。確かにトップは欠損し、エッジにもややダメージがあり、背面もへき開している。だがこれは100年は昔の生野鉱山金香瀬である。どうして抗うことが出来るであろうか。そうしてまた蛍石界の旅へと戻るのであった。

(2022/12/10)


宝達山

Hodatsu Yama, Hodatsushimizu-cho, Hakui-gun, Ishikawa, Japan

石川県 羽咋郡 宝達志水町 宝達山

3cm tall

 

蛍石を集め始めて少し経ち国産の蛍石標本に興味を持ち始めた頃、誰からとなく「宝達山の蛍石の色は鮮やかだよ」と教えてもらったことを覚えています。ですけれどもこれまで10年近く、入手する機会に恵まれませんでした。

今回ようやく鮮やかな色合いと言っても良い蛍石を手にすることができました。

 

まずこれ3cmもあります。そしてこの鮮やかな黄緑色。たぶんカザフスタンのKent Massifやカリフォルニア州のFelix鉱山の蛍石と嘯いても通じてしまうほどでしょう。

16世紀頃から金山としての歴史があり、明治から大正にかけて最大で5㎝程度の蛍石を産したとされる宝達山ですが、これまた多くのほかの国産蛍石産地と同様に、しっかりとした標本の入手は現代では難しいと言わざるを得ません。この標本に関してはFriedrich Krantz名義の1900年代初頭のKrantz商会のラベルが付属していることから、恐らく明治年間末期までに産出し、ドイツへと輸出された標本であることがわかります。サンキュー髭。

(2022/8/19)


大分県 尾平鉱山

大分県豊後大野市三菱尾平鉱山

Mitsubishi-Obira Mine, Bungo-Ohno City, Oita Pref., Japan

8cm wide

Ex. Robert Deidrick collection

海外の蛍石コレクターも「日本の蛍石と言えばすなわち尾平鉱山」と考えるわけで、名にし負う尾平鉱山の蛍石標本と言ってもよいでしょう。

残念ながら最も望まれるピンク色を呈する標本ではありませんが、ミントグリーンの蛍石がリッチなものです。しかも、蔵内尾平鉱山ではなく、三菱尾平鉱山のラベル付きの標本です。そう三菱尾平鉱山です。

1935年から1954年にかけて三菱鉱業が経営下にあったわけですが、第二次世界大戦下の蛍石標本が残存していたと考えるよりは、終戦後から54年にかけて産した標本とみるほうが自然でしょう。

後にアメリカの有名鉱物商の手を介して、カリフォルニア州のコレクターのキャビネットに収まり、数十年を経て日本へ里帰りして我が家に収まりました。

決してナミビアはErongo Mt.の蛍石標本と比べるとか、そういうことは良い子のみんなはやめましょうね。

(2022/10/28)



栃木県 大成鉱山

Taisei Mine, Nikko City, Totigi Pref., Japan

栃木県日光市 大成鉱山

30mm×20mm×13mm

Mined in 1/1/2015

 

蛍石不透明ではありますが色鮮やかな蛍石のグリーン、透明な水晶、純白のカオリンの組み合わせの標本。国産でこれだけ綺麗なものが、現在で産出するんだなぁと。

大成鉱山はカオリンなどを採掘している現役の鉱山だそうです。

敢えて外国産の蛍石に例えるならば、スペインのPapiolか、ナミビアのErongoあたりに少し似た印象を受けます。