アストゥリアスの蛍石

風光明媚な観光地として名高いアストゥリアス州ですが、アゥストリアスの蛍石もその景色に負けじと一級品の蛍石で私たちコレクターを楽しませてくれます。

紫や青紫、黄色や無色透明に近いもの。端正なキューブから、その結晶面に十二面体やテトラヘキサヘドロンなどが現れてなんとも奇妙な結晶形になったもの。水晶と共生するものもあれば、重晶石と共生するもの、はたまた瀝青などを含有しているものまで。

アストゥリアスの蛍石はこのようにバリエーションにとても富んでいます。

有名な産地の名前としては

Ribadesella:Berbes、La Cabaña

Caravia mining area:Emilio鉱山、Jamina鉱山、Llamas Quarry

La Collada mining area:La Viesca鉱山

Villabona mining area:Moscona鉱山

などを挙げておきますが、多くの産地があり複雑なため大まかな産地のみが記載されていることもままありますし、見るからに別鉱山のものと取り違えられてラベルされていることも少なからずあります。

 



La Viesca Mine

La Viesca Mine, Huergo, La Collada mining area, Siero, Asturias, Spain

Cicra 2006, Collected by Juan Fernandez Buelga

 

La Viesca鉱山の濃い青紫の蛍石。

これがかなり深くて濃い青紫で、とくに光を当てると透明度が良くわかり大変綺麗。ただ単純な色調というわけでもなく、中にもやっと濃いところがあったり薄いところもあったりとこういう部分が好き。

またお手本のようにdodecahedronが出ているのですが、結晶の形が長方形なのでちょっと面白い感じになっています。

 

スペイン人のとある鉱物ディーラーの方が自分で採取されたもので、La Viesca鉱山の"La Lenteja Pocket"という所から出て来たものらしいです。


La Viesca鉱山自体は露天掘りで採掘されてきた鉱山で、無色から青紫、濃淡様々とわりと幅広い色合いの蛍石提供してくれますが、レアなところになると緑がかった露草色のものからトリカラーのものまでその幅は広いです。


La Viesca Mine, Huergo, La Collada mining area, Siero, Asturias, Spain

Mined in March/2015

45mm×40mm×30mm

 

La Viesca鉱山のアンディゴ色の蛍石。

 

非常に強烈な色合いの蛍石で、表面に近い部分に紫がかった青もしくは青みがかった紫の層があり、その内部はしっかりとしたSaturationのアンディゴorネイビーブルーといった色合い。

この系統の色合いは、人によって、あるいは標本一つ一つによって青系と認識するか紫色と認識するかが異なってくるかもしません。

が、どちらにせよ、La Viesca鉱山の蛍石のなかでは最上級にSaturatedな青紫色と言いたくなるぐらいに美しい色合いです。

 

形に関しては、スペインらしい骸晶の少々強めの風体。十二面体によるモディフィケーションもあり。

そして透明度もかなり良く、少し光をかざすとその深い青みを堪能できます。

鉱物界の価格高騰の波は、この流通が比較的多いLa Viescaの蛍石にも波及しており、なかなか。そういう時流なんです。

(2017/10/27 編)

La Viesca Mine, Huergo, La Collada mining area, Siero, Asturias, Spain

Mined c. 2013-2015

Miniature Sized

 

大変よろしいミニチュアサイズの標本。

無色透明、ダメージのほぼない蛍石。形のよい母岩付き。バライトの添えもの。

無色透明、invisible、Ice。種々の形容のあるこの手の蛍石、ロシアやNYの十八番ですが、スペインもね。ということでひとつ。こういう標本には冗長な解説はむしろ不要でしょう。

(2017/10/28)


La Viesca Mine, Huergo, La Collada mining area, Siero, Asturias, Spain

40mm×30mm×25mm

 

La Viesca鉱山のicy blueな蛍石。

完全にジェム・クオリティで、裏面も結晶しており、角がひとつ欠けていること以外は完璧なFloaterな標本。


色合いはこのLa Viesca鉱山ではよく見る薄い水色か、もう少しだけ濃い水色ぐらい色合い、透明度とあわさってまさしく”氷のような水色”だろうか。

しっかり観察すると表層付近に淡い紫の層があり、それに続いて水色の部分が続いているのが見て取れます。


結晶形は十二面体などの他の面を認めず、Cubeのみ。ちょっとAsturiasっぽくないようなきもしますが、表面の微妙なモザイク具合や、骸晶具合はやっぱりスペインらしいです。


透明度が高い&さほど濃い色合いでもないため、うちの撮影環境ではしっかり色をとらえられないパターン。少しだけ写真に手を加えて実物に近付けてあります。また、とらえられなかったよ…この手の色合い。


恐らくは2014年ぐらいのごく最近に採集された標本だろうと考えています。

ちなみに、この手の水色タイプは内部により濃い青~紫のハッキリとしたファントムを伴う物もあります。それはまた別の機会にでも…。


Berbes

La Cabaña, Berbes Mining area, Ribadesella, Asturias, Spain

Mined in April/1983

Miniature Sized

 

重晶石を母岩として、ピンクのニュアンスをもった淡い紫の蛍石が目を惹くBerbesらしい標本。

メインの結晶上部だけわずかに表面がフロストみを帯びていますが、そこを除けば透明度もよく、控えめなファントムも伴った何とも儚げ。それでいてバランスの良いミニチュアサイズな部分が私的にはポイント高め。

 

Berbesの蛍石は、色の濃淡はあれどほぼすべてが紫色を呈します。また透明度もまちまちで、この標本のようなものから、濃い紫で半透明まで様々。Asturiasらしく、立方体の辺が十二面体で切り落とされているもの多いです。中にはピンクのファントムがあるものまで…

そして当たりポケットのようなものがいくつか存在しており、これは1983年のもの。

(2019/1/25)


La Cabaña, Berbes, Ribadesella, Asturias, Spain

Thumbnail Size

 

Berbesの蛍石の中でも淡い桜色の元は違い、紫系統のもの。

キュートなサムネイル標本で、とても濃い紫と薄い紫、そして青色からなるファントム模様が素晴らしい。これで結晶が20mmからあれば…と思いますが、そういったものはプレミア価格となっていく運命。

 

知り合いのディーラーが言うには”Berbesではゾーニングが見られることはあるが、濃い紫と薄い紫のような組み合わせが多く、紫と青のような異なる色合いの組み合わせは稀”と。

サイズは小さいですが、これもその一例と言えるのでしょう。

(2017/1/28 編)


La Cabaña, Berbes Mining area, Ribadesella, Asturias, Spain

Miniature Size

 

これもLa Cabaña, Berbesという有名な産地のものですが、上二つとは趣がまた少し違った標本です。

 

ミニチュアサイズの中にディープな紫、反対側が容易に見透かせるほどの透明さ、非常に緻密で繊細なファントムのすべてが揃っています。ファントムは中心部により濃い紫と、それを取り囲むように幾重もの細いゾーンといったよくある、しかし非常にBerbesらしいものです。

多少のダメージがあるにはあるのですが、色・透明度・ファントムの三拍子整っておりこの地の蛍石が高く評価されるのが何故か、少しは伝わるのではないでしょうか。

 

BerbesやメキシコのMapimíなど、この手の深い紫色の蛍石の中には紫外線長波で赤く蛍光するものがあります。実際これも赤い蛍光を見せてくれますが、あえては撮影しません。そういのって、自分で探してみる宝探し的な楽しさもあると思うのです。

(2017/8/12 編)

Berbes Mining area, Ribadesella, Asturias, Spain

 

これまで幾つBerbesの蛍石を入手してきたのだろうか...と思いをはせると数十個は思い浮かぶわりに、イリノイやポルトガル、イギリスなどの各産地と比べて特段の思い入れはないのに...人間わからないものです。

 

そしてこれも、薄く宝石質でノーダメージな蛍石と、茶色い重晶石というまぁベルべスですねという標本。小奇麗にサムネイルサイズにまとまってくれた、有りそうであまりない美人さん。

といってもここ最近の標本単価インフレの流れに逆らって、比較的お財布に優しかったコスパの良いもの。友人が輸入する際に一枚かんで分けてもらったものなのですが、気づいたら多くの石友さんが独自の海外ルートを開拓していた。どうしてこうなったのだろう。

(10/2/2016)


Emilio Mine

Mina Emilio, Loroñe, Filón Obdulia, Colunga, Zona minera de Caravia, Asturias, Spain

55mm×45mm×25mm

Mined in July/2014

 

エミリオ鉱山の上質な蛍石標本。

僅かに黄色い方解石の上には、ドクリアでほんのちょっぴりだけ青い、澄みきったアイスブルーの蛍石。照りっ照りで、キラキラさは煌びやかな宝石に通じます。

しかしある意味では、アストゥリアスらしいよくあるタイプの標本でも。

 

この2014年7月に産出した、わずかに青いそしてすこぶる透明度の良いこのタイプの蛍石標本との最初の出会いは2014年のミュンヘンショー後。当時はエミリオの別標本を入手したばかりでこのタイプの入手を見送ったのです、そして何故あのとき手に入れなかったのかと後悔する王道パターン。

今回久しぶりに巡り合えたので迷わず入手しましたが、2014年当時と比べるとどうしても割高感は拭えません。

(5/12/2016)

Mina Emilio, Asturias,Spain Fluorite

Mina Emilio, Loroñe, Filón Obdulia, Colunga, Zona minera de Caravia, Asturias, Spain

50mm×50mm 

 

透明度で有名なEmilio鉱山の蛍石。

評判に違わず母岩が透けて見えるほどの透明さで、薄く藤色しています。

最大1.5㎝の結晶とまぁまぁ大きいのもぐっど。

 

このEmilio鉱山は今でこそ透明な蛍石で有名ですが、発見された当初の1940年代はカオリンを目的として採掘していたようです。

ここの蛍石は方解石や重晶石、水晶を伴うことが多く、硫化物や有機物をインクルージョンしていることもしばしばあるみたいです。(この標本では生憎確認できませんが…)

また結晶の端が実はhexahedronの面やtrapezohedronの面が出ているという物が多く、実際にこれはhexahedoronの面がでています。

写真にはうまく撮れていませんが。

 


Mina Emilio, Loroñe, Filón Obdulia, Colunga, Zona minera de Caravia, Asturias, Spain

29mm×28mm×27mm

 

Emilio鉱山の蛍石。

淡く青く色づき爽やかな透明感のある結晶なのですが、最大の特徴はinclusionとmodification。

黒い瀝青を綺麗に内包しており、さらにtrapezohedronとhexoctahedronによるmodificationが確認できます。輝くトラペゾヘドロンですね!違いますけど。

トラペゾヘドロンがでる蛍石は比較的珍しく、私のコレクションの中でもここまで大きく表れているものは恐らくこれだけ。そういった意味で面白いぎりぎりサムネイルサイズの標本。

スペイン人のディーラーさんからの頂きもの。

(2017/7/24 編)

 

Fluorite from Emilio Mine

Mina Emilio, Loroñe, Filón Obdulia, Colunga, Zona minera de Caravia, Asturias, Spain

29mm×22mm×16mm

第27回国際ミネラルフェアで購入

 

Emilio鉱山の単結晶。

薄く紫色でエッジがそれより濃い目の紫色で、ウォータークリア。

上の同産地の標本とは同じ紫系統でも、色合いが若干違う感じです。

劈開や剥離痕はありますが、それでも充分グッドなサムネイル。

結構サイズがあるので、結晶の形もdodecahedronが現れているのもわかりやすいと思います。

 

購入した店舗の店主はBerbesのどこかの鉱山で働いていたことあるとかで、色々話が聞けて挙句名刺とパピコまでいただてしまいました。

 

※追記

この標本なのですが、とある店舗の人と会話している際に、Emilio鉱山ではなくLlamas Quarryではないのかという話になりました。

実際、私も形は大きさ透明さからLlamas Quarryの可能性はないのかな?と購入した際にイタリア人店主に聞いたのですが、「そのあたりは近場だし、WeardaleやGilgitみたいに集積地にあつまっちゃうとごちゃ混ぜになったりでわかんないんだよね」と言われ、まぁ仕方ないのかな…みたいな。真相は謎。

 


Llamas Quarry

Llamas Quarry, Duyos, Obdulia vein, Caravia, Asturias, Spain

32mm×32mm×25mm

Mined in 2010~2011


透明度だったり照りだったりで(あとお値段も)アストゥリアスの蛍石の中で一線を画するLlamas Quarry。

そのなかでもちょとLlamas Quarryのイメージとは離れた蛍石標本。


色合いはスペインらしいと言っていいでしょう、薄い紫色に幾つかのゾーニングといった風体。

この時点ですこしだけ青みを帯びて淡く儚げな、しかし見る者を魅了するような紫色の蛍石が典型的なイメージのLlamasとはちょっぴり離れています。照りもあんまりありませんしね。


形はスペインでよくある、そしてLlamasでもよくある立方体にDodecahedronが追加されたもの。

骸晶が良く発達していて、結晶の角の部分がちょうどコブになっているかのようにぷっくりと成長しているので、蛍石母岩のうえに蛍石が成長している的な雰囲気を持っています。


Llamas Quarryもしくはスペイン語でCantera Llamasの蛍石はアストゥリアスの蛍石のなかでも上質なものとして、一部マニアには一定の知名度があると思われます。2010年に良質な産出があり、その後も一定の流通があることから産出は今現在も続いているのかもしれません。


しかし一番惹かれるのはLlamasがFlame、つまり炎だということ。

かっこよく、ないですか?


Caravia

Caravia, Asturias, Spain

Thumbnail Sized

Mined in 1970's

 

アストゥリアスのなかでもCaraviaの宝石のような蛍石。

淡くすみれ色の結晶が、これでもかというほどの照りと透明度で私の心を動かしてきます。

 

さて蛍石でAsturiasuのCaraviaと来れば、蛍石好きの人なら”あぁEmilio鉱山かJaimina鉱山、はたまたLlamas Quarryのどれかだろう”と思うことでしょう。

実際にこの素晴らしい結晶も、形・色合い・見た目からしてJaimina鉱山やLlamas Quarryのものと酷似しています。しかしこれはそれらの産地の物でないようです。

 

1960年代から70年代、Caraviaには小さな鉱山や採石場が数百と存在し蛍石の採掘が盛んにおこなわれていました。 現在では、蛍石需要や値段競争の果てなのでしょうか、稼働する鉱山は前述のJaimina鉱山とEmilio鉱山のみとなってしまいました。

ですから、イリノイ州の蛍石でCave-in-Rockとのみ表記された標本同様、往時に無数あった鉱山のどれかからやってきた標本というわけです。

(2017/8/13 編)



Moscona Mine

Moscona Mine, Solís, Corvera de Asturias, Villabona mining area, Asturias, Spain

23mm×22mm×18mm   Mined in 2006.

Ex: Juan Fernandez Buelga Collection

 

スペインの有名産地・Moscona鉱山の蛍石。

とても鮮やかな山吹色の単結晶。

結晶の透明度・蜂蜜が混ざり合ったかのようなゾーニング、そして端正な結晶形といい、Moscona鉱山からの極上の一滴。

 

これは全くの余談ですが、モスというペンネームを冠している以上、このモスコーナ鉱山の蛍石は妥協せずに可能な限りの良品を入手したかったのです。

(この際”モス”というペンネームが、某ハンバーガーチェーン店で合コンとかいう何ともアレな感じの由来であることはおいておきましょう。)

そこに友人でありスペイン産鉱物のスペシャリストであるJuan F. Buelga氏のコレクションからまさにこれだ!というものが転がり込んできたもの。

 

Moscona鉱山というと、基本は黄色い蛍石で結晶が1㎝を超えることは少なく、連晶になっているのが一般的。共生としては方解石や、重晶石がよくあるもの。特に青い重晶石との共生はそれだけで値段が数倍になるかと思うぐらいにレアかつ評価されています。

また黄色以外の蛍石として紫色のものが極まれに出回りますが、質は黄色いものより劣ることが多い気がします。

まとめると、こういった単結晶タイプはすっごい、レア。



Corta La Sirena

Corta La Sirena, La Collada de Atras, Siero, Asturias, Spain

Miniature Sized

Mined in 2014, Spring?~Summer

 

2014年の夏ごろにかけて新しく出回ってきたスペイン産の蛍石。

 

色はくすんだ緑色が淡く、といった趣で一部には紫色。

透明感は割合よく肉眼では綺麗な色合いに見えますが、やっぱり写真には正確に写し取りにくいアンニュイな雰囲気が漂う蛍石です。

 

形に関しては、所々が骸晶のようになっていたり丸みを帯びていたりしつつもピシッと六面体式に近いと、こちらはいつものスペインの蛍石と近しい様子。

 

Corta La Sirenaは実のところ新しい産地というわけではなく、La Collada地区の古い蛍石産地とのこと。そこから一時的な産出があり、2014年に少しくすんだ緑色の蛍石が出回りました。

形はこの標本のように少し端が丸みをおびたりした六面体式の結晶が多かったようです。

 

ただこのくすんだ緑色、別段レアカラーと言うわけではないみたいです。

普段La Colladaというと青~紫の蛍石というイメージをもちますが、La Colladaでも古くからの産地はくすんだ緑色の蛍石をそこそこ産出するとのこと。

勿論、Vividな緑色となると話は別の様ですが。